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「小次郎つばめ返し」

入院生活つれづれ3

入院して4日目、突然看護士さん達がバタバタとやって来て部屋替えを言い渡された私は、
案内されるまま、自分の荷物を持って向かいの部屋の角へと収まったのであります。
この何の前触れもない引っ越しは入院中よくあることですが、
どんなコミュニティにも礼儀と秩序があり、
たとえ病人とはいえ新参者は住人さん達にご挨拶をしなくてなりません。
しかしベッドを区切るカーテンをいきなり開いて自己紹介するわけにもいかず、
平安貴族のように御簾越しで話し聞きつつ、
顔の見えないルームメイト達の顔をいろいろと想像するのであります。
タイミングを逃したまま、翌朝洗面所で70代前半と思われる女性と一緒になり、
「262号室の方ですか?今度部屋をご一緒することになりました。宜しくお願いいたします。」
と初めて声を掛けると女性はちょっと首を傾げた後、
「ああ、昨日あの角に入ってきた方ですね。」と合点がいった様子。
「私は肝臓が悪くてねえ・・・」
病院は一度挨拶すれば見知らぬ同士でもお互いの病気自慢が始まる不思議な場所なのであります。
『昨日の話の内容だと肺の手術を受けたと言ってたが・・・』
肝臓も悪いとは大変だなあと思いつつ聞いておりました。
他のルームメイト達とも挨拶を交わした後は病人同士、女性同士、
高いカーテンに区切られお互いの顔が見えないまま、
旧知の仲のように会話が進むのでありました。
たった数日間ではありますが、相手の家族構成や人生まで知るほど濃密な関係になった頃、
新参者の私は退院が決まり、お世話になった同室の方々に再び挨拶をするため
遠慮がちに彼女たちのカーテンを引くと、
そこに居た住人は毎朝洗面所で挨拶を交わした女性ではなく、全く知らない顔だったのでした。
その時私は初めて他の部屋の女性を同室の方と勘違いしていたことを悟り、
退院日に初めてルームメイトの顔を知ったのでありました。