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「小次郎つばめ返し」

聞こえないフリをしてください

田舎の選挙投票率はちょっと信じられない数字である。
我が村も数年前まで常に98%はあり県内1位であった。
村総出の大イベントなのだ。
うちの目に見えない義父や車椅子の義母もまた例外ではない。
投票日に大阪へ遊びに行く村八分な私は、仕事が終わってから義父を連れて、
近くの役場へ不在者投票に出向いたのであった。
以前は家族付き添いで投票が出来たのだが、
個人の意志と秘密、選挙の公正さを守るため、義父には役場の職員さん2人が付いて、
「代理投票」という形で投票が行われたのである。
しかし義父は何の選挙でダレが立候補しているかも知らなかったため、
付き添いの職員さんに「だれに入れたら宜しゅうございますか?」と大声で問い、
「わしじゃわからん!ダレでもええから書いてくれ。」と職員さんを困らせたのである。
「ダレがええか言うてくれ。」と繰り返すこと数十分、
選挙を見守るために裁判官のようにおごそかに座っている立会人数人と順番をまつ村民達、
付き添っている職員数人は困り果て『どちらでもいいから名前を口にしてくれ!』と念じていたころ、
ようやく義父は「じゃこっちする」と一人の候補者の名字を大声で口にしたのであった。
付添人と立会人はホッとした顔で目と目を合わせ、無言でウンとうなづき、
役場内には安堵のために穏やかな空気が流れた。
こうして義父の「意志と秘密」は守られたのである。