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「小次郎つばめ返し」

若者よ大志を抱け

事務所の中で待つ客人はスーツを着た20代くらいの男性で、
「この度転勤することになりまして。」と私に礼をした。
?????転勤ハガキの注文か???ぼんやり戸惑っていると
「その節は大変お世話になりました。最後のご挨拶をと思いまして。」
と丁寧にもう一度お辞儀をしたのだ。
途端に私の頭は高速逆回転でグルグル回りだし『大変お世話をした』であろうこの人を
容量のないハードの中から探し始めた。
「イエイエ!『その節』ハ、コチラコソ オセワニナリマシタ。」
『その節』ってどの節だ!!???
慌てて頭を下げながらも私の頭の中では検索ロボットが目まぐるしく駆けめぐっていた。
『大変お世話になった』んだから、相手も私も相当知っているハズである。
今更分からないとは言えない。
「ワザワザ キテイタダキ(どっからだー?←私の心の声)ホントウニスミマセン。」
なんとか知ってる風をこのまま最後まで通さなければならない。
「アチラニイカレテモ(あちらってどこだー?←私の心の声)オカラダニ オキヲツケテ ガンバッテクダサイ。」
私の口から言葉が次々と自動音声のように出てくる。
相手の話が具体的なって墓穴を掘らないように私の口が先手を打ってしまうのだ。
こんなとき日本語の曖昧さってスバラシイと思う。確信に触れなくても会話が成り立つのだ。


そして二言三言言葉を掛け合い、いよいよ事務所からお帰りになる客人を見送る時に全てを思い出した!
『そうだ!この人(※危険:プチ自慢があります)は1年前に一緒に仕事をした病院のドクターではないか!』
少なくとも1ヶ月間顔をつきあわせて仕事をし、サブドクターとして父の最後を看取ってくれ、
しかもこんなおばちゃんに好意を抱いてくれているという男性の顔を全く覚えていなかったのだ。
「よそでいろいろ勉強された後、またこの町の病院へ戻ってくださいね。」
並んで歩きながらやっと実のある話を切り出すことが出来た私。
身を粉にして地域医療というボランティア的なポジションで頑張っていた自分を
数ヶ月顔を見ないだけで、まさか忘れられているとは思わなかっただろう。
うっかりバカの私のせいで、若い医師の志を挫くところだった。
申し訳なさに車に乗り込む背中に向け「お気をつけて」ともう一度声を掛けたのであった。